資料と著作権について

更新日:2022年3月 4日

著作権法第35条は,授業で使用することを目的とした場合に,著作物を権利者の許諾なしに複製することを認めています.従来,この権利は授業時間内に限られていました.しかし,2020年に改正著作権法第35条が施行され,教育機関設置者が授業目的公衆送信補償金を一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 (SARTRAS) に支払うことで,権利者の許諾を得ることなく,授業時間外での著作物の配布などができるようになりました [1].

なお,著作権法第35条以外に,第32条 (著作物の引用) などで利用が認められる場合があります.

2022年度の補償金の状況について

2021年度以降の補償金額は,文化庁長官により認可されており [2],その金額を記載した補償金規定 [3] によると,実施の日(2021年4月1日)から3年を経過する毎にこの規定を検討するとしています.なお,2022年3月に教育推進課に確認したところ,文科省から補償金対応分の経費の示達があり,2022年度も著作権法第35条による著作物の利用が,附属学校も含めて可能となる見込みとのことでした.

著作権法第35条運用指針について

著作物の教育利用に関する関係者フォーラムは,改正著作権法第35条運用指針 [4] を公表しています.この指針は,著作権法第35条の用語を具体的に定義するもので,例えば,第35条にある「授業」として,講義,実習,演習,ゼミ,教員免許状更新講習,公開講座,履修証明プログラムなどは該当するが,学校説明会,オープンキャンパスでの模擬授業,教職員会議,FDとして実施される教職員を対象としたセミナーや情報提供などは該当しないとしています.

また,補償金を支払った場合でも,「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は権利者の許諾が必要ですが,これに該当する可能性が高い例として,「授業を行う上で,教員等や履修者等が通常購入し,提供の契約をし,又は貸与を受けて利用する教科書や,一人一人が演習のために直接記入する問題集等の資料(教員等が履修者等に対して購入を指示したものを含む。)に掲載された著作物について、それらが掲載されている資料の購入等の代替となるような態様で複製や公衆送信すること」や「授業のために利用するかどうか明確でないまま素材集を作成するような目的で,組織的に著作物をサーバへストック(データベース化)すること」などを挙げています.

第35条の対象となるか判断に迷った場合

第35条で補償金を支払った場合に複製が可能かどうかの判断に迷った場合,運用指針 [4] を参照することによって,ある程度明確になるものと思われます.また, SARTRAS は FAQ [5] を提供していますので,こちらも参考になると思われます.以上でも判断がつかない場合,学術情報メディアセンター(教育クラウド室も含む)ではお答えできませんので, SARTRAS に直接お問い合わせください [6].

海外にいる留学生に対する適用の可否について

SARTRASは,「海外の教育機関内で授業のために行う」,すなわち「海外の教育機関で、教員が、担任する児童生徒に授業のために著作物を送信する場合(児童生徒から担任の教員に送信する場合も同じ)」は「日本の法律は適用されませんので,本制度の対象外です.その国の法律が適用されます」としていますが,「日本国内の教育機関の教員が、一時留学等で海外にいる担任する児童生徒に授業のために著作物を送信する(海外から日本国内に送信する場合も同じ)」場合など,「日本において発信又は受信が行われる場合」は,「本制度が適用され得る」としています [7].また,2020年8月に SARTRAS へ確認したところ,海外の協定大学の学生をオンライン留学生として受け入れ,これらの留学生に授業のために著作物を送信する場合,この留学生が来日しない場合であっても,授業目的公衆送信補償金制度が適用されるとの回答がありました.

[1] SARTRAS, 学校教育と著作権(著作権法35条),
https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/easy_remuneration.pdf
[2] 文化庁, 授業目的公衆送信補償金の額の認可について, https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/92728101.html
[3]SARTRAS, 授業目的公衆送信補償金規程, https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/92728101_04.pdf
[4] 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム, 改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版), https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/unyoshishin_20201221.pdf
[5] SARTRAS, 補償金制度利用に関するFAQ, https://sartras.or.jp/faqs/
[6] SARTRAS, お問い合わせ, https://sartras.or.jp/preinquiry/
[7] SARTRAS, FAQs: 私は在外教育施設(日本人学校、補習授業校、私立在外教育施設等)の教員をしていますが、私の学校では日本の著作権法の第35条の適用を受けられず、著作権者の許諾を得て授業で利用しなければなりませんか, https://sartras.or.jp/faqs/#q3

適法引用

※本項目は,京都大学高等教育研究開発推進センター「OCW@KU学内者向けガイドライン」
を,許可をいただいたうえで参考とさせていただきました.

・著作物引用の際のチェック項目

著作権法第32条は,「公表された著作物は,引用して利用することができる.この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」として,著作物の引用の要件を定めています.著作物を適正に引用するためには,以下のような要件にも気をつけてください.

(1) 「引用される著作物」が公表済みのものであること.

  • 未公表のメモ,手紙,日記,論文等は対象外です.

(2) 「引用される著作物」が,「引用側の著作物」と明瞭に区別できること.

  • 論文や図書等の文字による著作物は,カッコ記号,段落変更,フォント変更等で引用箇所と地の文を区別して示すことが必要です.
  • 図表,写真,絵画等の文字によらない著作物は,引用箇所に注記をつける,出所を明示するという形で区別が必要です.

(3) 「引用される著作物」について,タイトルや著作者等の「出所の明示」をしていること.

  • 原則としてタイトルおよび著作者名を表示します.
  • 雑誌論文・雑誌記事は掲載誌名と巻号,出版年等の表示,書籍等は出版社名と出版年,必要に応じて掲載の版等を表示します.
  • 出所の明示は「引用される著作物」に近接して表示します.

(4) 「引用側の著作物」が主,「引用される著作物」が従の関係があるといえること.

  • 講義のために引用の必要性があること(引用の目的と必然性).
    必要性がないのに参考程度として掲載,また写真等を鑑賞させるために掲載,という目的の場合は不可です.
  • 引用箇所が目的に照らして必要以上の分量ではないこと.
    引用箇所が地の文より分量が多い場合は,主従関係が逆転しているとみなされる可能性大です.そうではない場合も,引用は必要な範囲にとどめましょう.
  • 「引用される著作物」の一部を勝手に改変・削除しないこと.
    引用の形自体が不適切な場合は適法引用となりません.
・参考